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Japan

初導入の技術で、革新的なポンプを世界へ
開発時間とコスト、2つの壁を越える挑戦

開発スピードとコスト
両方の課題を超えるべく
導入した「逐次成形」


 

世界中の「6億人に水を届ける」という目標を掲げる荏原製作所。その達成に欠かせない海外向けポンプにおいて、新製品の開発スピードを上げ、なおかつ、より革新的な製品を考案するための取り組みが進められました。製品開発に欠かせない「試作」のプロセス。そこにかかる時間やコストの壁をどうすれば乗り越えられるのか――。

こうした課題に対し、荏原製作所の海外向けポンプの製品開発では、金型を使わずに部品を作る「逐次成形」という技術の活用を模索してきました。荏原グループ全体のものづくりを支援する拠点「Ebara Manufacturing Technology Advanced Center(以下、EMTAC)」との連携による取り組みです。

その内容について、EMTACの一員である生産プロセス革新・品質保証統括部 製造技術開発部 試作・拠点連携推進課 プレスチームの日比野圭祐と磯野美帆、海外向けポンプの開発を担う建築・産業カンパニー 開発統括部 海外事業開発部 グローバルポンプ開発課の東海林健太とチンチャンスレ・マリナートが語り合いました。


「挑戦的なアイデアが出しにくい」という課題

―― 今回行ったポンプ開発における取り組みとは、どのようなものでしょうか。

東海林:新しいポンプを開発するには、「設計」「試作」「試験」という工程があります。私たちが新製品の設計を考え、その設計にもとづいた試作品を作り、試作品を使った試験を行って必要な性能が出ているかを検証するという流れですね。その中で、今回の取り組みは「試作品の製作」に関する課題解決を目指したものでした。

​​ステンレス製ポンプ​を製造する際には、専用の金型を作り、それを金属に押し当てて成形する「プレス加工」という作業があります。金型はひとつ数百万円かかることも珍しくなく、製造期間も3〜4カ月ほどが一般的です。すでに販売が決まった製品なら問題ありませんが、試作品の製作でそれだけの費用と時間のかかる金型を作るのは理想的ではないですよね。トライ&エラーができず、挑戦的なアイデアも出にくくなります。もっと早く低コストで試作品を作る方法がないか、EMTACに相談したのが始まりでした。

日比野:EMTACでは、各事業部門で必要とする試作品の製作や、さまざまな技術のノウハウ蓄積を行っています。そういった背景から、今回の相談が持ち込まれました。

東海林さんが話した課題に対して、EMTACが提案したのは「逐次成形(インクリメンタルフォーミング)」という技術の活用です。これは、専用の金型を使わず、機械によって金属板を少しずつ変形させて目的の形状に加工する技術のこと。金型を必要としない(=ダイレス)ことから「ダイレスフォーミング」とも呼ばれ​、その分、費用も製作期間も大幅に短縮されます。​

これまで荏原で逐次成形が活用された例はありませんでしたが、以前からこの技術の調査を進めていました。そこで今回、ポンプの試作品製作に使ってみることを提案したのです。社内で初めて逐次成形を活用したケースとなりました。

日比野圭祐
生産プロセス革新・品質保証統括部 製造技術開発部 試作・拠点連携推進課 プレスチーム

磯野:あわせて、試作品の製作では、逐次成形で作った部品などを接合する“後工程”も必要です。私はEMTACでレーザ溶接という技術を研究しており、この技術による後工程の対応も検討していきました。製造工程の一連を担う技術が揃っているのがEMTACの強みであり、総合的な視点で考えていきましたね。

顔なじみだった4人が日々チャットをしながら

マリナート:それからは、実際に逐次成形で部品を作って試験を行い、品質を確認していきました。私たち開発側が入念にチェックしたのは、この新しい技術によって、設計から「わずかなずれもない精度」で試作品を製作できるかどうかです。というのも、ポンプ製品の開発では、各国が定める規格をクリアしなければ、その国で製品展開できません。私たちはその規格を前提にした設計をしています。

金型を使ったプレスの利点は、設計との差が極めて少ない成形ができることです。逐次成形の場合はどのような仕上がりになるのか、出来上がったものを見ながら、その点を確認していきました。このメンバーで日々チャットをしながら、コミュニケーションしていきましたよね。

東海林健太
建築・産業カンパニー 開発統括部 海外事業開発部 グローバルポンプ開発課 

東海林:私と磯野さんは以前同じ部門にいた間柄で、日比野さんとマリナートさんは同期入社なんです。そういう関係性もあり、お互い遠慮せずに話し合っていきましたね。

日比野:余談ですが、​2018年入社時のマリナートは、日本に来たばかりでほとんど英語で話していたのに、1年後にはすでに日本語が上手になっていて、びっくりしたことを覚えています。​

―― 逐次成形で作ったものについては、どのような印象を抱きましたか。

東海林:まず何より「金型を使わずにこういうものが作れるのか」と驚きました。プレスと同じだけ正確な成形をするには、まだいろいろなノウハウが必要ですが、それが実現すれば製品開発が大きく変わると感じますね。

日比野:今も逐次成形のノウハウは着々と蓄積されており、難易度の高い成形も可能になってきています。一方、この取り組みを進める中で、従来の金型プレスの価値や長所も改めて明確になってきました。それらを考慮し、逐次成形とプレスの適切な使い分けを行うことも重要だと思っています。

お客さまに届けるスピードをもっと早く

―― この取り組みの成果や、今後の目標などはありますか。
​​チンチャンスレ​・​マリナート
建築・産業カンパニー 開発統括部 海外事業開発部 グローバルポンプ開発課

マリナート:一般的に、ひとつのポンプ製品のシリーズが完成するまでには 1〜3年かかります。なかでも、もっとも時間を費やすのは試作品の製作とそれを使った性能評価ですから、この部分を逐次成形で短縮できれば早いスピードで市場に製品を出せますし、お客さまのニーズにすばやく対応できます。期待は高いですし、私はぜひ、これからの新製品開発の試作にこの技術を活用したいですね。

東海林:最初に話した開発の3工程のうち、「設計」のスピードを早めることは我々にもできますが、その後の試作品に関する時間の短縮は、私たちだけではどうにもできません。これからもEMTACと一緒になって、このテーマを追求していきたいですね。

日比野:現状は、逐次成形を使えばおおむね1カ月ほどで試作品が出来上がります。いずれは、その期間を10日に短縮できたらいいですね。あくまで目標ですが、決して夢ではないと思います。

磯野:逐次成形でスピードを上げるのに合わせて、私が担当するレーザ溶接の工程でも同じ速度で進められるようにしたいですね。レーザ溶接自体はもともと短時間で行えるのですが、その作業に必要な治具(溶接などの機械作業を行う際の補助用具)の製作時間などをより短くしていきたいと思います。

磯野美帆
生産プロセス革新・品質保証統括部 製造技術開発部 試作・拠点連携推進課 プレスチーム

日比野:レーザ溶接も含め、1個の技術だけでなく、その前後の工程とのつながりに関するノウハウも蓄積して、現場の方を支援できたらいいですね。

マリナート:社内組織のEMTACと試作品を作ることは、開発のクオリティ向上にもつながると思います。かつては、試作品の製作を外部に依頼することもありましたが、社内なら荏原の製品や社内用語もお互い理解しているので、意思疎通がしやすいですよね。声もかけやすくなります。結果、試作品の要望も伝えやすくなり、品質の向上につながるでしょう。

東海林:EMTACの存在によって、荏原グループのものづくり情報が共有されることにも期待したいですね。どうしても自分の事業カンパニー以外とコミュニケーションを取る機会が少なくなってしまうのですが、EMTACが横串で入ることで、他事業の情報が伝わりやすくなるでしょう。実は他の領域で使っている技術がポンプでも活用できるといったこともあるはずです。これからもぜひ、いろいろと相談していきたいですね。