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Japan

水素における「標準を作る」
−253℃の試験を可能とする
世界初のプロジェクト

液体水素の試験・開発センター
立ち上げに総力戦で挑む


 

世界初の設備を作るために必要なものとは――。荏原製作所では、2021年から水素事業を新たに立ち上げ、液体水素ポンプなどの開発を進めています。この動きを加速させるため、水素関連製品の試験・開発センター建設にも着手。-253℃の水素実液を用いた実スケールの商用製品試験設備としては、世界初となります。なぜこのような設備を作るのか。そしてセンター設立に関わるメンバーは、どのように前例のないプロジェクトを進めてきたのか。

CP水素関連戦略ビジネスユニット 製品試験・開発センターの荒井 大志と中村 裕、同ビジネスユニット エンジニアリング部の浦野 陽平と飯嶋 祥平に聞きました。


「水素に本気で取り組む」ことを示すプロジェクト

――どのような経緯で試験・開発センターを設立することになったのでしょうか。

飯嶋:環境負荷の低い水素は「次世代燃料」として注目されており、国内外でその活用が検討されています。荏原では、水素事業を新たな柱にしようと2021年から製品開発などを進めてきました。水素を「つくる・はこぶ・つかう」という3つの領域で当社の技術を活用しようと考えており、すでに世界初の水素発電向け「液体水素昇圧ポンプ」の開発にも成功しています。

これらの製品を開発する上では、液体水素の“実液”を使った性能試験による品質確認が不可欠です。しかし、国内で液体水素を取り扱える大規模な試験設備はほとんどなく、あるとしても規模が小さい、もしくはさまざまな機関が共同で使うものでした。荏原でこの事業を本格的に行うには、試験設備を自社で作る必要があります。責任を持って世の中に製品を出すには、自分たちで試験をして確かめることが大切だからです。そこでセンター建設へと至りました。

飯嶋 祥平
CP水素関連戦略ビジネスユニット エンジニアリング部 電気計装設計チーム

浦野:今回のセンターは、商用製品について実スケールでの水素実液による製品性能試験や要素技術開発を可能にしています。これだけの規模で、高水準な試験ができる施設は世界初となります。「水素に本気で取り組む」という荏原の決意表明ともいえるでしょう。

荒井:水素を活用するうえでは、気体のままだと体積が大きすぎて輸送などが難しいため、液体水素にする必要があります。そのためには-253℃の“極低温”を保たなければなりません。非常に扱いが難しいのですが、この会社には液体水素に生かせる技術が多数あります。

たとえば荏原では、LNG(液化天然ガス)などの「液化ガス」用ポンプ製品も展開してきました。LNGは−162℃に冷やす必要があり、水素と同じく極低温のノウハウが必要なもの。以前は荏原でも試験場を所有していました日本でも数少ない液化ガスの試験設備です。この知見を生かし、かつ液体水素の新たな要素を入れながらセンターを建設しています。

実は私も、かつて運用メンバーとして液化ガスの試験場に所属しており、その経験を生かそうとこのプロジェクトに自ら手を挙げました。他の3人は転職組で、みんな「水素事業に関わりたい」とここに来ましたね。

飯嶋:経歴も全員ばらばらで、まだまだ歴史の浅いチームです。フレッシュな4人ですね(笑)

「水素の特殊性」を考慮した設備仕様の決定

――4人それぞれの役割はどのようなものですか。
中村 裕
CP水素関連戦略ビジネスユニット 製品試験・開発センター

中村:私と荒井さんは「センターを使う」側、つまり実際に試験を行う役割です。浦野さんと飯嶋さんは「センターを作る」側ですね。使う側の私たちが「どういう試験をやりたい」「こういう環境が必要」と伝え、それを聞いて作る側のメンバーが機器の選定や配置などを考えています。

飯嶋:通常、こうしたプロジェクトはモデルや見本になる設備がありますが、今回は前例がありません。この規模の水素試験設備は世界初です。自分たちですべて考えなければならないのは大変ですが、楽しさにもなっていますね。

――液体水素は取り扱いの難易度が高いといわれます。試験設備を作る上でも、いろいろなハードルがあるのでしょうか。

中村:そうですね。-253℃の環境が必要なのはもちろん、水素は可燃性の高さもポイントになります。空間を100とした時、ガスは濃度30%以上になると爆発が起きると言われますが、水素はそのラインが4%以上と極めて低い。わずかな静電気や火花でも引火する可能性があります。そういった中で試験を行うので、安全性の担保が重要になります。現場で使う工具についても、火花が生じない仕様にするなどの細かな配慮が求められます。

浦野:そのほかの特徴として、水素は非常に小さい元素であり、さまざまな物質に入り込みやすいんです。これは、水素を扱う機器や設備の劣化を招きます。この点をふまえて、耐久性に問題ない機器や材料を選ぶ必要があります。

――機器を選ぶにも慎重さが必要だと。その際に心がけていることはありますか。

飯嶋:「この機器なら大丈夫」と納得できる要素がどれだけ揃っているか、です。ある機器があったとして、理論が通っているか、いろいろな角度からたくさんの人の意見を聞いた上で問題ないと言えるか、妥当な検証が行われているか――。世の中にないものを作るからこそ、私たちが信じられるかが重要です。

浦野 陽平
CP水素関連戦略ビジネスユニット エンジニアリング部

浦野:その意味で、この会社にはさまざまなスペシャリストがいますし、水素事業のトップもフランクに話を聞いてくれます。いろいろな意見を集められる環境はプラスですよね。

この設備のノウハウを外部にも展開したい

――みなさんは「水素事業がやりたくて異動・転職してきた」という話がありました。今回のセンター立ち上げに関わる中で、改めてどんなところにやりがいを感じていますか。

荒井:やっぱり、新しいことに挑戦できる点です。類を見ない施設を作る中で、どのような設備・運用が良いのか。みんなで最適な方法を考えながら作り上げてきました。その過程は忘れられないですね。

荒井 大志
CP水素関連戦略ビジネスユニット 製品試験・開発センター

中村:機器を選定するにも、安全に液体水素を扱えるのか、1つ1つ細かくメーカーさんとも確認しています。時間がかかりますし、何もかも初めてで大変さはありますが、日々楽しくやっていますね。みんな明るいメンバーなので助かっています(笑)

浦野:そもそもこのプロジェクトに関われたこと自体がやりがいですよね。間違いなく自慢できますから(笑)。しかも最初の土台作りから参加できたので、今後のためにも貴重な経験になりました。しんどい時もありますが、上司がいつも言うのは「これだけの挑戦をしているのだから、楽しんでやろう」ということ。その言葉を大切にしています。

飯嶋:みんなで相談しながら作ってきたものが、形になっていくのはうれしいですね。あと私は、温度計や圧力計といった計測機器から、設備の制御ソフトウェアまで幅広く担当しています。そこで大切なのは、今必要なものを導入するだけでなく、将来新たな機器を入れることを見据えて“一定の余裕”を作っておくこと。そうしないと、後に「この設備を入れる余力がありません」となったら困りますから。将来の発展を見据えて、どのくらいの余裕を作るか。ここがオーナーエンジニアの腕の見せ所かなと。

――前例のないプロジェクトを進める上で、荏原の武器は何ですか。

浦野:組織がフラットで、いろいろな人が相談し合えることではないでしょうか。新たな事業やプロジェクトは、一人で解決できないことがたくさんあります。いろいろな人の知恵を合わせることが必要になる。荏原は部門の分断がないし、経営層にもどんどん相談できます。この規模の会社で経営層と気軽に話せるのはその象徴だと思いますね。

飯嶋:部門の忘年会にも来てくれますからね(笑)。こういう文化があるからこそ、全社で知恵を合わせられるのかなと思います。

――これからの展望を教えてください。

飯嶋:個人的に「世の中の標準」を作りたいとずっと思ってきました。この設備をそういう存在にしたいですね。「水素の試験設備ならここが標準」だと言われるように。それが目標です。

浦野:そして今回培ったノウハウを、国内外の企業にも展開したいですね。水素社会の構築に貢献しようとする方々はたくさんいます。液体水素の試験ノウハウやその設備のあり方についても、私たちの知見を伝えていけたらと思います。