次世代エネルギーとして期待される「水素」。荏原製作所では、新規ビジネスとして水素関連事業に取り組んでいます。世界初となる水素発電向け「液体水素昇圧ポンプ」も開発しました。しかし液体水素は、−253℃という“極低温”の環境が必要であり、このポンプもその中で動作させることが求められます。まさしく未知の開発でした。どのように成功へと至ったのでしょうか。
開発の道のりについて、CP水素関連戦略ビジネスユニット 水素回転機器技術部 開発課の池田 隼人と原 彰宏が振り返りました。
次世代エネルギーとして期待される「水素」。荏原製作所では、新規ビジネスとして水素関連事業に取り組んでいます。世界初となる水素発電向け「液体水素昇圧ポンプ」も開発しました。しかし液体水素は、−253℃という“極低温”の環境が必要であり、このポンプもその中で動作させることが求められます。まさしく未知の開発でした。どのように成功へと至ったのでしょうか。
開発の道のりについて、CP水素関連戦略ビジネスユニット 水素回転機器技術部 開発課の池田 隼人と原 彰宏が振り返りました。
池田:最たるものは、−253℃という“極低温”の環境が必要な点です。私たちが作った液体水素昇圧ポンプは、水素発電向けのものです。燃料として使われる水素は、気体の状態では体積が大きく、運ぶ際などに効率が悪くなる。そこで液化させるのですが、このためには−253℃まで冷やす必要があります。我々のポンプも、その温度環境で動作するものにしなければなりません。
これだけの極低温では、さまざまな想定が必要になります。たとえば−253℃まで下がると、ポンプの材料が収縮を起こすことがあります。しかもその収縮率は、材料によって変わる。これらを見越して設計しなければならないのです。
原:さらに「液体水素は密度が非常に小さく、圧縮性がある」という特徴も、ポンプ開発の難易度を高めます。たとえば水の場合、1立方メートルの重さは1トン(1,000kg)と重く、ほとんど圧縮されないため密度は一定とみなせます。でも液体水素は同じ体積でも約70kgと軽く、極めて密度が低いうえに加えて密度の変化もあります。それだけ特徴のある流体を扱うポンプの開発にはそれ相応の技術が必要です。
池田:「粘性が非常に低い」、「燃えやすい」といった特徴も十分に理解してケアする必要があります。
池田:脱炭素社会の実現に貢献したいという思いからです。荏原は今まで、社会に貢献することで成長してきました。水素というクリーンエネルギーについても、その活用を後押しすることがこの会社の理念や思想につながるのです。
併せて、荏原は液体水素を扱えるだけの技術力を持っています。たとえば極低温の技術については、−162℃の環境で扱うLNG(液化天然ガス)用ポンプの納入実績が多数あります。これらを生かして水素社会に貢献したい、という考えがあります。
池田:実はそれよりずっと前、2017年頃から取り組んでいました。最初は3人のチームで始めましたね。2019年度には、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業として、水素発電ガスタービンへの水素供給に必要となる、世界初の水素発電向け「液体水素昇圧ポンプ」の開発をスタートしました。
NEDO事業は、2022年度までの4年プロジェクトです。まずは荏原のLNGポンプをベースに作っていきました。その製品設計に携わっていた社員も巻き込み、メンバーを増やしていきましたね。
こうした活動をしているうちに、2021年から水素事業が本格的に立ち上がり、液体水素ポンプの開発もさらに強化されていったのです。
原:私が荏原に入社したのは2022年5月で、まさしく水素事業に携わりたいとここに来ました。それ以降、液体水素ポンプの開発をを主に行うほかにも、荏原が手がける水素サプライチェーンに関連する製品開発に広く携わっています。
池田:2022年度には、NEDO事業の最終年度を迎えました。実際にポンプの試作機を作り、性能評価の試験を実施しましたね。JAXAの能代ロケット実験場(秋田県能代市)に液体水素を扱える施設があるので、そこで行いました。ただし、本来は液体水素を使ったロケットエンジンなどの実験場ですから、ポンプの試験をすぐに行えるわけではありません。どんな実験をしたくて、何が必要か。JAXAの方と試験設備から検討していきました。
また、富津工場やEOL(EBARA Open Laboratory)など他部署の多くの方たちに工場や現地で協力いただいて完遂しました。
池田:最初にポンプが動いた瞬間、感動したことを覚えています。試験は何度か行い、無事に目標値を達成することができました。本当にうれしかったですね。この試作機をもとに、今回の液体水素昇圧ポンプ開発に至りました。
池田:世の中にないポンプを自分で設計して、実験まですべて行えたことですかね。さまざまな課題と対峙しましたが、こういうやりがいが大きかったと思います。メンバーも次第に増えて、原さんをはじめ中途入社の方も多数加わりました。いろいろな考えを聞けるのも刺激になりましたね。
池田:そうですね。同時に、より高性能な液体水素のポンプを開発していきます。その中で大切なのは、これまでベースにしていたLNGポンプからあえて離れること。LNG技術から学ぶのは大切ですが、その延長で考えるのではなく、あくまでお客さまが成し遂げたいことをやるために必要な機能は何かを見つめ、それを実現するポンプを作ろうと。原さんを中心に、こうしたテーマで開発を進めています。
原:液体水素ポンプの開発にはLNGポンプの技術を応用出来る点が多くありますが、もちろん違う性質も多数見られます。だとすると、実は今の構造とはまったく違ったポンプを作る道筋もあるかもしれません。
そこで今行っているのは、私たちが作った液体水素やLNGのポンプについて、それらが持っている機能を一度分解すること。その上で、本当に必要な機能・技術を抽出し、ゼロから最適な液体水素ポンプのコンセプトを再構築する活動も行っています。
原:この部署の上司の下で、尚且つこのチームの雰囲気だからできるのかもしれません。キャリアが浅いからとその人の提案を頭ごなしに否定する人はいませんし、それぞれがお互いをリスペクトしています。中途入社が多く、途中から参加したからと意見を言いにくいこともありません。
池田:実は、私たちの組織のリーダーは、まさにLNGポンプに関わってきた人なんですね。もちろん思い入れもあるはず。でもそのリーダー自ら「LNGポンプから離れないといけない」「ゼロから構築し直してみよう」と言ってくれます。だからチーム全体でこの動きができるのでしょう。
原:今後大きいのは、荏原で水素関連製品の試験・開発センターが新設されることです。これまで日本国内では限られた場所でしか実液を扱う試験ができませんでした。液体水素という未知のものを扱うからこそ、実際の試験で何度も確認することが必要です。自社でその設備を持てば、開発スピードも製品の精度も上がるでしょう。
池田:荏原は社会貢献企業であり、社会のインフラを担ってきました。それはこれからも同じです。脱炭素社会を目指す上で、その基盤を構築する存在になりたいですね。それも、必要不可欠な存在になりたい。お客さまや社会が求めるものは何か、ものづくりの本質を突き詰めながら製品を開発していきます。