執行役 CFO 渕田 徹也
CFOメッセージ
中長期の成長を見据えた
戦略に基づき
施策を着実に進めながら
資本市場との対話を深めていきたい
CFO就任のご挨拶
培ってきた経理財務のキャリアを生かしながら
成長スピードを加速させる仕組みづくりに注力していく
2025年3月にCFOに就任いたしました渕田です。私は1995年の入社以来、経理財務の分野で経験を積んだ後に、2021年からベトナム子会社の社長として経営を担い、2024年からは経営企画統括部長として中長期での企業価値向上を志向してきました。当社の業績が厳しい状況にあった2000年代初頭から今日に至るまでの企業変革の歩みを、主に経理財務の立場から支えてきた経験が、私のキャリアを形づくっています。
近年の当社は成長軌道に乗ったと言えますが、そのスピードを更に高めていくことがCFOの役割と捉えており、①キャッシュ創出力の維持・向上に注力し、②事業の成長投資のサポートを通じて投資後の確実なモニタリングを促し、③得られた成果や利益を新たな成長と還元にバランスよく配分することで、④資本効率の向上につなげていく、という一連の流れを確実なものにしていく考えです。
同時に、資本配分の最適化や財務戦略の策定、投資リスク管理など、CFOに求められる幅広い役割についても認識しています。特に投資案件に対しては、各カンパニーの実力を実績のみで近視眼的に評価するのでなく、将来を見据えた事業ポートフォリオの最適化や、成長投資に対するリターンの道筋を示すなど、競争力と財務の両面から事業活動を支えていく必要があると考えます。
一方で、人的資本やDX、ESG諸施策への基盤投資も引き続き重視しており、売上収益や利益成長との相関関係に着目して、サステナビリティ経営の深化に取り組みます。グループ全体の人材リソースを強化すると、どの程度、期待成長率やROICにポジティブな影響があるかなど、非財務価値を適正に測定して財務価値に転換させる仕組みづくりを、コーポレート各部門と連携して進めます。
2024年12月期の振り返り
E-Plan2025に掲げた戦略・施策が順調に進捗するとともに
複数事業の相互補完効果により過去最高業績を更新
2024年12月期は、市場や地域によって需要に濃淡がある中で、当社は複数の事業セグメントが補完し合い、受注高、売上収益、営業利益がいずれも順調に推移しました。
2年目を迎えたE-Plan2025の進捗については、基本方針に沿った戦略・施策が確かな成果を出しつつあります。例えば、対面市場組織への移行により顧客対応力が強化されたことで、顧客起点での価値創造のためのソリューションを提供する下地が整ってきています。また、CxO制の導入により、それぞれの専門分野において迅速かつ的確な意思決定が可能になるとともに、組織全体の戦略の方向性が明確になることで、部門間の連携が強化されています。
こうした取り組みの成果が計画以上の営業利益率など、好調な業績につながり、受注高、売上収益、営業利益、当期利益のすべてにおいて過去最高業績を更新しました。しかしながら、これはあくまで当社グループとしてより高みを目指す上での通過点に過ぎないと捉えています。
*1.ROIC計算式:NOPLAT(みなし税引後営業利益)÷投下資本{有利子負債(期首期末平均)+株主資本(期首期末平均)}
*2.2022年12月期~2025年12月期
*3.2024年7月1日に1株を5株とする株式分割を実施。記載は株式分割後ベースに調整した数値
*4.2025年12月期計画は2025年5月時点
2025年12月期の見通し
E-Plan2025で育んできた成長事業を収益の柱として
目標達成のその先へ、一段階上の成長を追求する
E-Plan2025の最終年度となる2025年12月期の事業環境は、長期化するウクライナ情勢や、米国の関税措置及び米中関係の緊張などから当面は不透明な状況が続くとみています。一方で、エネルギーの安全保障上の理由からLNG等の需要が高止まりしていること、公共・産業インフラに関わる事業においていずれも底堅い需要が望めることから、E-Plan2025の計画を達成できると見込んでいます。
なお、精密・電子セグメントにおいては、売上CAGRの目標15%に対し10.5%に留まる見込みですが、これはグローバルでの市場回復が計画策定時の想定より遅れているためと分析しています。それでも、2020年代前半の半導体製造装置市場のCAGRが一桁台前半程度であったことを考えれば、市場の成長率以上の事業成長は実現できていると捉えています。
2025年12月期に課題となるのは、これまで行ってきた成長投資のリターンをいかに刈り取り、次期中計に向けて成長の勢いを加速できるかという点です。顧客の製品にセンサーを設置して稼働データを収集・分析するEBARAメンテナンスクラウドをはじめとしたソリューションビジネスの収益拡大や、新規事業として取り組んできた水素関連ビジネスの受注に期待しています。また、海外売上収益比率が高まる中、グループ全体で進めているERP導入を通じた業務標準化を進め、グローバルで経営基盤の高度化を図っていきます。
キャッシュアロケーションと投資マネジメント
過去の教訓を生かしてM&Aの社内プロセスを改善し
規律ある投資により成長を加速させる
E-Plan2025では、中長期的なキャッシュアロケーションの方針として、2030年にありたい姿を実現するための投資を重視しています。計画期間3年間の累計で、生産能力の増強や研究開発、新規事業、M&Aなどの成長投資として1,800億~2,250億円、維持更新設備や人的資本、DX、ESG関連投資などの基盤投資として500億~850億円を見込んでいます。
2024年12月期は、市場が急拡大する半導体分野を中心に、2023年12月期を上回る投資を実施しましたが、2025年12月期は更に倍の規模の投資を行う計画です。各セグメントにおける成長投資を拡大するとともに、水素など新たな収益の柱となる事業の立ち上げや、ERP整備など経営インフラへの投資も重視しており、これらが次期中計期間の力強い成長をもたらすと期待しています。
現在公表している2030年の財務目標「売上収益1兆円、ROIC10%以上、ROE15%以上」のレベルを維持しつつ、更なる高みへと進んでいくためには、「規律ある投資」の実施が重要と認識しています。事業横断的に投資に関する優先度を設定した上で、各投資案件1件ごとの的確な判断と効果の確実な刈り取りに結び付けていく必要があります。
特にM&Aについては、2021年に買収したトルコのポンプメーカVansan社に係るのれんの減損損失が発生した経験を踏まえ、社内プロセスを改善しました。投資のPDCAサイクルにおけるC(評価)とA(改善)に課題があったとの反省から、事前計画の精査やリスク把握、PMIにおけるモニタリングやガバナンスといったプロセスを見直し、強化を図っています。また、D/Eレシオを財務規律としていますが、最適な資本構成のあり方についても再考する必要があります。今後も競争力強化の一つの手段として、既存事業とのシナジーが見込める企業・事業をターゲットとしたM&Aを活用する方針に変わりはありませんので、過去の失敗を引きずるのでなく、そこから得られた教訓を生かすことで、インオーガニックな成長を実現していく力量を高めていきたいと考えています。
私はCFOとして、具体的な数値に基づいた冷静・客観的・俯瞰的な視点で、全社の的確な判断に結びつけるとともに、更なる挑戦に向けてカンパニーの背中を押していく所存です。
E-Plan2025キャッシュアロケーション
■ E-Plan2025の2年目となる2024年12月期も、成長投資を中心に概ね計画どおりに実行
■ 2025年12月期も成長分野を中心に積極的に投資。精密・電子やエネルギー関連は、将来の市場の拡大を見据えて投資を加速
■ 資本効率を重視した投資と安定的な株主還元のバランスを意識
ROIC経営の「深化」から「真価」へ
ROICツリーを駆使して、各組織に資本効率改善への意識を徹底
ROIC-WACCスプレッドの最大化を目指す
E-Plan2025では、グループ全体の資本効率を高めるため、基本方針の一つに「ROIC経営の深化」を掲げています。その推進のため、ROICの構成要素を分解・可視化する「ROICツリー」を作成し、各組織におけるKPIの月次管理はもちろん、組織ごとのミッションや業務プロセス、アクションにROICツリーの各項目を紐づけ、その評価にもつなげてきました。こうした取り組みにより、資本効率の視点から組織のパフォーマンスを評価する文化が根付きつつあります。
今後はROIC経営の肝である「ROIC-WACCスプレッドの最大化」に注力していきます。具体的には、ROIC-WACCスプレッドに応じた事業ポートフォリオマネジメントにより、成長事業と基盤事業を明確に区分し、投資にメリハリをつけるとともに、必要に応じてポートフォリオの再構築も検討します。同時に、また、投下資本に関する管理精度を高度化しており、投資判断のハードルレートを事業別や国別で設定・運用しています。
株主価値の最大化に向けて
財務・非財務情報の質の向上を通じて
株式市場との対話を深めることで、ご期待に応えていく
E-Plan2025では、株主還元の方針として、連結配当性向35%以上との目標を掲げるとともに、自己株式の取得についても選択肢の一つとしています。こうした方針のもと、2024年12月期は年間配当を1株46円から55円に引き上げており、2025年12月期も更なる増配を計画するなど、引き続きインカムゲインとキャピタルゲインの両輪での株主価値最大化に努めます。
E-Plan2025では、売上収益の拡大と将来に向けた積極的な成長投資の両方を追求してきました。これまでに種を蒔いてきたいずれの投資も、利益という果実が得られるまでに一定の時間を要すことを理解の上で、確実な成長が見込める分野に照準を当ててリスクをコントロールしつつ実行してきました。今後の中長期かつ持続的な成長にご期待いただければと思います。
同時に、資本市場からの理解と共感を得られるよう、情報発信の量と質の向上にも注力していきます。特に近年では、財務情報に加えて非財務情報の開示高度化が求められており、非財務活動が業績にもたらす影響や財務インパクトをどのように評価・算出し、わかりやすく説明するかが問われています。まずは財務・非財務の相関関係の仮説検証に着手しており、その結果を非財務目標の設定に活用するとともに、しっかりとステークホルダーの皆様へ開示し、資本コスト低減につなげていきます。
私自身、「ぶれない姿勢」と「自らをも俯瞰的に観る冷静さ」を持ち続け、CFOという重責を果たしていく所存です。株主・投資家の皆様との対話を、合理的な市場コンセンサスを形成する場とともに、当社及び自身を客観的に知る貴重な機会と捉え、コミュニケーションを深めていきたいと思っています。今後ともよろしくお願い申し上げます。
ROIC経営
当社グループでは、ROIC(投下資本利益率)をROE(株主資本利益率)とともに経営の最重要指標と位置付けています。中期経営計画E-Plan2013での導入以降、「必要な投下資本を考慮した上で、それに対するリターンを最大化する」というROICの考え方は社内で確実に浸透しています。
全社の事業ポートフォリオマネジメントの視点と、各事業においてROICの改善を図る視点の2つを重視し、具体的なアクションプランに落とし込むことで、ROICの改善を進めています。当該目標に対する達成度は、組織や個人の業績評価に反映される仕組みとしています。
*1.株式会社荏原製作所及び連結子会社の決算期の変更に伴い、2017年12月期は9か月間の変則決算となっています。
*2.2021年12月期より従来の日本基準に替えてIFRSを適用しています。また、2020年12月期の財務数値についても、IFRSに準拠して表示しています。
(注)ROIC:<IFRS>親会社の所有者に帰属する当期利益÷{有利子負債(期首期末平均)+親会社の所有者に帰属する持分(期首期末平均)}
<日本基準>親会社株主に帰属する当期純利益÷{有利子負債(期首期末平均)+自己資本(期首期末平均)}
2023年12月期よりNOPLAT(みなし税引後営業利益)÷{有利子負債(期首期末平均)+親会社の所有者に帰属する持分(期首期末平均)}
ROIC-WACCスプレッドの最大化
WACCを上回るROICの維持・向上と、ROIC-WACCスプレッド拡大につながる事業戦略及び資本政策の実行により、持続的な企業価値向上を目指します。
ROICツリー
TSRロジックツリー
当社では、株主価値向上のための指標としてTSR(株主総利回り)を重要視しています。経営の重要指標であるROEとともにTSRを各影響因子に分解した上で、個別施策と結びつけてその改善を推進しています。PBR水準を意識しつつ、ROEの向上と中長期的なTSRの最大化を目指していきます。
2025年6月
執行役 CFO
渕田 徹也