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Japan

現場の感覚とデータの掛け合わせが生んだ改善
EMTACと国見工場の連携による「プレス」効率化

金型を独自開発し
工程の削減と
生産安定を目指す



ビルや商業施設などに使われる送風機の製造を行う荏原風力機械の国見工場。ここでは製造工程の一つである「プレス」の内製化拡大に伴い、増えつつある作業者の負荷を軽減するために、工数を減らし、コスト削減や製造プロセス改善を目指すプロジェクトが行われています。荏原グループ全体のものづくりを支援する拠点「Ebara Manufacturing Technology Advanced Center(以下、EMTAC)」と、国見工場のメンバーが共同で進めた取り組みです。

一体どのようなプロジェクトだったのか、EMTACの一員である生産プロセス革新・品質保証統括部 製造技術開発部 試作・拠点連携推進課 プレスチームの松井悠一と、荏原風力機械 国見工場 生産部 調達物流課の宇田純平が語りました。


プレスの「金型」を独自開発し、現場の負担減を

―― EMTACと国見工場が行った「プレスの工数削減」とは、どのような取り組みなのでしょうか。

宇田:国見工場では送風機の生産を行っており、特に中小型サイズの製品についてはプレスという製造工程があります。今回はその工程を効率化する取り組みでした。

松井:プレスとは、専用の金型に金属の板を置き、上からプレス機と呼ばれる機械で圧力をかけて目的の形状にする加工方法のことです。圧力は数十トン、数百トンにも及び、自動車をはじめ、たくさんの製品に用いられています。

私は現在、EMTACでプレスのノウハウ蓄積や、それをもとにした荏原グループ各事業所の支援を行っています。国見工場での取り組みもその一つでした。

松井 悠一
生産プロセス革新・品質保証統括部 製造技術開発部 試作・拠点連携推進課 プレスチーム

宇田:プレスでは、金属を目的の形状にするために、一つ目の金型をあてて平らの金属を円筒型にする、次に二つ目の金型で一部分に段差をつけるなど、何種類かの金型を使って一回一回変形させていきます。国見では、もっとも多くて6種類の金型を使い目的の形にする、つまり“6工程”が必要な製品がありました。この工程数を少しでも削減できないかと松井さんに相談したのです。

松井:一工程ごとに金型を交換してプレスするので、一つでも少なくすれば現場の負担は減り、労務費(製造にかかわる人件費)も削減されます。また、使用する金型が減るので開発費を抑えることもできます。そこで今回は、6工程から5工程に削減できるよう、途中の2工程を一度に完了できる金型を私たちで開発した結果、最終的にはリードタイム短縮にもつながりました。 

宇田:金型は定期的にメンテナンスが必要になるのですが、それまで使用していたものは外部の会社が製作したものであり、メンテナンス時はその会社に預ける必要がありました。従ってこの期間はプレスができなくなるのですが、私たちの扱う送風機は毎日出荷する製品ですから、メンテナンスを見越して前もってプレスしておくなど、生産計画を調整する必要があったのです。しかし自社開発になると、メンテナンス時期や期間の融通が効きやすくなります。その点でもメリットになると思いました。

松井:もちろん2工程を一度に完了する金型を作るのは、決して簡単ではありません。一回のプレスで変形させすぎると、表面に割れが入ったりシワができたりする可能性もあるからです。そのリスクを回避する必要がありました。

定期メンテナンスもしやすい設計へと改良

―― どのように今回の取り組みを進めたのですか。

松井:まず行ったのは、費用対効果の試算です。新たな金型を作るのはそれなりに費用がかかるので、1工程でかかる労務費を算出し、金型の製作費に見合うかを確かめました。該当のプレスの作業時間や、関連製品の生産台数などから計算したほか、今回はちょうど金型が老朽化で交換時期を迎えており、費用対効果が出やすかったのです。十分に取り組む意味があると確認しました。

宇田:次に、3Dスキャンで既存の金型の寸法を計測しました。この金型は自社開発ではないので図面がなく、正確なサイズを知る必要があったのです。

松井:というのも、金型の開発には成形解析というシミュレーションが有効になります。金型の寸法データを入力し、指定した圧力をかけた場合にどのような出来上がりになるかを解析するもので、割れやシワの発生予測にもつながります。これらを行うためにも、寸法の取得が必要でした。

―― それらの過程を経て、どのような金型を作っていったのですか。

松井:目をつけたのは、「製品外側の段差と製品内側のカップ形状の加工を同時にできるのではないか」という所でした。この2つの加工は圧力のかかる位置や方向が異なり、同じ金型で一度に実施しても影響がでないと予測したのです。

現在の2工程に分けた加工を1工程に集約しても、金型構造を工夫することで構造が成立することができました。そこで宇田さんにもこの方向で問題ないことを確認してもらい、金型を開発しました。

宇田 純平
株式会社荏原風力機械 国見工場 生産部 調達物流課

宇田:月1回ほどミーティングを開き、進捗を確認しながらプロジェクトを進めましたね。私は最初に国見のプレス工程の課題や要望を伝えたのみで、それ以降は松井さんが主体で進めてくれました。

―― 金型の開発で心がけたことはありますか。

松井:望んだ通りの形状にプレスできることはもちろん、現場の方が分解しやすい金型を目指しました。先ほど話した金型のメンテナンスでは、いったん全部バラして中に使われている消耗品などを交換するからです。なるべく現場の方の負担を減らせればと思いました。

また、荏原グループには複数機種のプレス機があり、それらで汎用的に使えるようにしました。これは内製ならではのメリットではないでしょうか。

実感したデータの意義、次世代の育成にも有効では

―― この取り組みの意義をどう感じていますか。

松井:先ほど話したように、プレスに使う金型は外部開発のものを使用しているケースが少なくありません。今回のように自分たちで内製することで、ノウハウが荏原に残ることになります。

そのノウハウが蓄積されてこそ、より高度な加工を実現する金型を考えるなどの改善策にチャレンジできます。日本では金型メーカーが減少しているという実情もあるので、私たちが自ら設計・開発するノウハウを培うことは非常に重要でしょう。

宇田:EMTACとの取り組みで大きかったのは、詳細なデータをもとに一つ一つの判断ができたことです。例えば今回のプレス工程削減について、経験上は「1工程減らせるかも」という現場の感覚がありましたが、EMTACはそこにデータの裏付けを付加してくれます。だからこそ行動に移せました。

こうしたデータがあることは、従業員の育成でも今後重要になるのではないでしょうか。昔は「やりながら習得していく」ことも多かったですが、働き方改革などで労働時間が限られる中では、データを見せてより素早く知見や技術を次世代に伝えることが大切だと思います。特に若い世代の人は、裏付け情報があると納得感を抱く傾向にあるので、その点でも重要ではないでしょうか。

松井:今後の展望として、荏原グループでは藤沢やイタリアなどの拠点でもプレスを行っており、今回のノウハウを応用していく予定です。また、国見工場とはプレス工数削減だけでなく、さまざまな現場の課題についてEMTACが解決の支援をしています。そちらについても、着実に成果を出していけたらと考えています。

荏原風力機械 国見工場をご紹介します

 

ビルや商業施設などの空調設備に使われる汎用送風機を製造しており、120名近い従業員が働いています。近年は「きれいな工場」を目指そうと5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)に力を入れており、月2回、全従業員で清掃や整理を行う時間を設け、従業員が気持ちよく働けるように、また「ここで働きたい」と思えるような環境を目指しています。夏には納涼祭を行い、たくさんの地域の方が参加。高校生の職場体験も受け入れており、地域に根差した拠点となっています。