メインコンテンツにスキップ
Japan

「部品の長寿命化」に成功
ひとつの技術がもたらした、ごみ焼却炉の進化

荏原環境プラントと
EMTACによる歩み
4年近い活動の成果



ごみ処理施設などの設計や運営管理を行う荏原環境プラント株式会社(以下荏原環境プラント)。同社では、長年の課題だった「火格子」というごみ焼却炉に使う部品の長寿命化に取り組んできました。このプロジェクトをともに進めたのが、荏原グループ全体のものづくりを支援する拠点「Ebara Manufacturing Technology Advanced Center(以下、EMTAC)」です。EMTACが研究開発していた技術「レーザ肉盛溶接」を使い、火格子の寿命を3倍以上に延ばすことに成功しています。EMTACの一員である生産プロセス革新・品質保証統括部 製造技術開発部 新技術開発課の市田基と、荏原環境プラント(EEP) 共通基盤本部 基盤技術部 装置・機器設計課の香島正実がそのチャレンジについて語りました。


火格子の課題解決は、働く環境の向上やCO2排出量削減にもつながる

―― 今回の取り組みはどのようなものでしょうか。

香島:私が所属する荏原環境プラントでは、ごみ処理施設やエネルギープラントの設計・建設から運転・維持管理まで一貫で行っています。その中でも、私はごみ処理施設の中核機器であるごみ焼却炉の設計に携わっています。

 ごみ焼却炉にはいくつか種類がありますが、今回の話に関わるのは「ストーカ式焼却炉」というもの。このストーカ式焼却炉に使われている「火格子」という部品の寿命を延ばそうというプロジェクトでした。

―― 火格子とはどんな部品ですか。

香島:ごみ焼却炉の中でごみを運搬している可動式の床の部品の1つが「火格子」です。ひとつひとつの火格子はそれほど大きくありませんが、それを何百枚も敷き詰め、前後に動かすことでごみを攪拌、運搬しながら燃焼させます。

香島 正実
荏原環境プラント株式会社 共通基盤本部 基盤技術部 装置・機器設計課

ごみ焼却炉の中は1000℃近くで燃焼しており、1日24時間、年間300日ほど稼働することも珍しくありません。その環境下で火格子を使用していると、次第に損耗して交換が必要になります。というのも、火格子はもともと角があるのですが、高温腐食や摩耗で丸くなっていきます。するとごみの燃え方が不均一になったり、きちんとごみを運搬できなくなる事態につながるので、定期的な交換が必要なのです。しかし、火格子を交換するのは大変な作業ですし、ごみ焼却炉内の作業は防護服を着て行うため暑さも厳しいものがあります。
そこで、火格子の寿命を長くし、交換頻度を減らそうと考えました。交換コストを下げるのはもちろん、現場で作業する作業者の負担を軽くすることにもつながります。
 加えて、この取り組みはCO2排出量の削減にもつながります。なぜなら火格子自体の製造には多くのCO2が排出されるため、寿命を長くして交換頻度を減らせば製造時のCO2排出量を削減することができます。

―― この「火格子の長寿命化」という取り組みにEMTACが関わったということでしょうか。

市田:EMTACは荏原のものづくりをグループ横串で支援する組織であり、事業部やグループ各社と連携して、それぞれの製造現場が抱える課題を一緒に解決しています。そのための技術開発も進めていて、今回は「レーザ肉盛溶接」という技術を火格子に活用しました。私はEMTACでこの技術の開発や検証を担当しています。

―― 「レーザ肉盛溶接」とは、どんな技術なのでしょう。

市田:まず肉盛溶接とは、金属部品の上に性能の高い金属や同一種類の金属を溶かしてコーティング(肉盛)するものです。それにより元の金属(母材)の性能を向上させたり、すり減った部分を補修したりということができます。柔らかい金属の表面に固い金属を肉盛して強度を上げるといった使い方もありますね。

 この技術をレーザによって行うのが「レーザ肉盛溶接」です。他の肉盛方法よりも低入熱で行えるので、母材が変形しにくく、密着性も高くて肉盛した金属が剥がれにくいというメリットがあります。今回のプロジェクトでは、新品の火格子の表面にレーザ肉盛を行って耐久性を高め、長寿命化にチャレンジしました。

初回打ち合わせから半年後には「実機検証」へ

―― 火格子にレーザ肉盛を活用するアイデアは、どのように生まれたのでしょうか。

香島:きっかけは、EMTACの統括部長とEEPの基盤技術部長の会話の中で、レーザ肉盛の技術開発をEMTACが行っていると紹介されたことでした。そこで私と上司でEMTACに行き、実際にレーザ施工のデモを見た時に、これで火格子に肉盛りしたら面白いかもと思ったのが始まりです。

 火格子の寿命を延ばすことは、私たちの業界において長年の課題でした。この課題に対し、各社ともに材料を工夫したり、空気や水で冷却したりなど色々なアプローチを行ってきています。それらのアプローチにより寿命を延ばせるようになった一方、材料を高級化すると部品コストが高くなる、空気や水で冷やすとその分の冷却設備や冷却のためのエネルギーが必要となるなどの課題も残っているのが現状でした。エネルギーを使うとそのエネルギーを作る分のCO2を排出していることになってしまいますよね。

―― そうした中で、今回のアイデアが浮かんだわけですね。

香島:そうです。さっそく、テスト用サンプルとして使用済み火格子をEMTACに送付し、色々な条件でテスト肉盛をしてもらいました。もちろんすぐにはうまくいきませんでしたが、何度もテストと協議を繰り返し、これならいけそうだという施工条件が確立できたのが2021年3月。そこから1ヵ月で新品の火格子にレーザ肉盛し、2021年4月には、荏原環境プラントが運転、維持管理を行っている福島市のあらかわクリーンセンターの焼却炉に導入し、検証を開始しました。

 初回打ち合わせが2020年10月でしたので、それからわずか半年で製品を実機導入できたことになります。本取り組みは、本当に長寿命化に効くのか、効いたとしても費用対効果は出るのかという疑念はありましたが、リスクはほとんどないので、とにかく早く実機導入したいと考えていました。そこで初回の打ち合わせ時に福島市あらかわクリーンセンターの2021年4月のメンテナンス時にレーザ肉盛火格子を導入することをEEPとEMTACの共通目標として決め、その目標に向けて密に協力しながら開発に取り組んできたことで達成できたと思っています。EMTACとしてはかなり大変なスケジュールだったと思いますが、対応していただき本当に感謝しています。

火格子の検証結果をもとに、更なるチャレンジへ。火格子や他部品でも肉盛を検証

―― 実機検証ではどのような結果が出たのでしょうか。

香島:実機検証では肉盛材として5種類の金属で試験していますが、3年以上の検証で素材ごとの差が出てきました。結果が良い素材だと肉盛した火格子の消耗は従来品の約3分の1にとどまっています。このことから、寿命は3倍ほどに伸びると想定していますね。もちろん肉盛する分のコストはかかりますが、それを十分上回る長寿命化ができています。火格子の交換頻度も減らしていけるので、火格子製造により排出されるCO2量も3分の1以下に削減できることになりますし、火格子交換作業者の負荷も減らすことができるようになります。これらの結果から、EEPが運転・維持管理を行っている他の施設でもレーザ肉盛火格子の導入を進めています。

 

市田:さらに新しい取り組みとして、今までは新品の火格子に肉盛していましたが、最近は火格子の消耗した部分にこの技術を使い、再利用を目指すチャレンジも進めています。また、ごみ焼却施設やエネルギープラント内で火格子以外にもレーザ肉盛を活用できそうな部品をいくつかピックアップし、そちらへの肉盛、検証も始めています。

 今後は荏原環境プラントだけでなく、さまざまな事業や現場でこの技術が広がっていけばと思いますし、まだ役立てるところはあるはず。少しでも興味のある方はEMTACにお声かけいただければと思います。

―― 荏原環境プラントとEMTACが協力してのプロジェクトでしたが、お互いに感じたメリットや気づきはありましたか。

香島:同じグループ内だからこそ、本音でやり取りできたと思いますね。お互いに事業や製品のことは知っているので、細かな説明がなくても伝わります。また外部との協業で必要な契約手続きもありません。半年で実機検証まで持っていけたのもこの関係だからではないでしょうか。

市田:私は現場の声を聞く大切さを感じました。私たち研究開発側がイメージしているものと、実際に現場で必要なもの、求める仕様には差があることも少なくありません。今回のレーザ肉盛もそうです。最初の肉盛では導入が難しいとEMTAC側は思っていたものの、焼却炉に携わる方から見ると別の観点がありました。

 その技術を使う現場で求められる仕様は、何をニーズとしているのか。それを理解しなければ、過剰な仕様よってコストがかかりすぎるものを出してしまう可能性もあります。改めて現場の声を聞きながら技術開発を行う大切さを感じましたね。

―― 最後に、市田さんは他社から転職したキャリア採用でもあります。荏原に来て、その社風や業務の特徴をどう感じていますか。
市田 基
生産プロセス革新・品質保証統括部 製造技術開発部 新技術開発課

市田:ここに来て印象的だったのは、業務に関するデータが豊富に揃っていたことです。EMTACだからということもあるのかもしれませんが、例えば溶接について、過去さまざまな製品で行った溶接作業のデータが細かく保存されていました。何かするときにそのデータを判断材料にできるのはとても大きいですね。

長い歴史を持つ会社ですが、実際に働くと新しいことに取り組んでいると感じます。今回のプロジェクトもそのひとつ。こうした取り組みをこれからも増やしていけたらと思います。

荏原環境プラント株式会社をご紹介します

 

ごみ処理施設やエネルギープラントの設計・建設、運転・維持管理、さらにはそこから生まれる電気や灰といった副産物の資源化まで一貫体制で取り組んでいます。設計・建設とその後の運転・維持管理を一体で担う企業は少なく、同社の特徴といえます。また近年は、ごみを電力や蒸気・温水、再生石材、化学原料などに変えて社会に還元する技術やシステムの開発にも力を入れています。

      あらかわクリーンセンター

      福島市内の可燃ごみの焼却や不燃ごみの処理などを行う施設。荏原環境プラントが出資するあらかわEサービスが運営しています。2008年に完成し、2つのごみ焼却炉が24時間体制で稼働。ひとつの焼却炉につき1日約110トン、年間約6万3000トンのごみを燃焼しています。