荏原環境プラントが手がけ、2017年に稼働したごみ処理施設、武蔵野クリーンセンター。グッドデザイン賞も受賞した当施設の計画・運営に携わった4名の社員に、プロジェクトへの思いを語ってもらいました。
プロジェクト座談会
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市役所の目の前にあり多くの人の目に触れる。 会社にとって大切な施設。
Dさん:私は「二代目」の武蔵野クリーンセンターが稼働を始めた2017年に入社し、営業担当として地域住民の方々との交流イベントなどにも携わっていますが、プロジェクトとしては、私が加わるずっと前から動き出していたのですよね。
Aさん:そうですね。着工したのが2014年なので、提案書づくりはその2年くらい前に始まっていたと思います。
Cさん:でも、もともと荏原環境プラントが手がけた「一代目」を建て直すということで始まっているプロジェクトなので、社内的な準備はさらに前から進められていました。
Bさん:既存の施設だったので、失注は許されないというムードはあったように思います。「一代目」でも施設の運転管理まで請け負っていたので、そこで働いてきた社員の職場を守るという意味でも、競合他社に負けられないと感じていました。
Cさん:市役所の目の前にあるという立地も特殊でしたからね。このプロジェクトは、一般的なごみ処理施設よりも多くの人の目に触れるということもあり、当社にとってフラッグシップになりえる施設でもありました。
Aさん:なので正直、プレッシャーは感じていましたね(笑)。
Dさん:そんな雰囲気で始まったプロジェクトだったのですね。
これまでにはなかったレベルの“デザイン”に対する要望。
Aさん:このプロジェクトは他の案件とは違っていた点が三つありました。一つは建物のデザインです。これはお客様である武蔵野市から、地域の方々から寄せられた声をもとに、地域の方々が求めるデザインを追求したいというご要望をいただきました。
Cさん:普通はプラントがあって、それを覆う建物がある、という順番ですが、「二代目」の武蔵野クリーンセンターでは建物のデザインに求めるものが明確にありました。
Aさん:最初に伝えられたのは「どこからでも同じように見えるデザインで」というもの。つまり、建物を東西南北四方向から見たときに「すべてが正面に見えるように」ということでした。通常、ごみ処理施設は、プラントの機能に合わせた設計をするため、凸凹が出るもので、方向によって見え方は違ってきます。それをそろえるというのは難題です。高さも通常では20メートル程度は必要な設備でしたが、圧迫感の軽減をテーマに15メートルくらいに収めることに尽力しました。それで、地面を掘り下げるとともに、プラントの性能アップ、レイアウトの工夫を追求し、最もコンパクトな施設を提案しました。
Bさん:メンテナンスを担当する私としては、プラントをコンパクトにしながらも、実際の日々の保全作業に支障が出ないように注意を払い、図面などのチェックをしていました。
Aさん:そこは本当によく議論しましたね。
Dさん:デザインと機能のバランスをとるのが大変だったのですね。
「災害時の発電機能」と「見せる化」。
Cさん:もう一つの特長はプラントの機能部分ですね。
Aさん:はい。「一代目」にはなかったごみ発電機能を追加することが求められました。東日本大震災などの経験を踏まえ、停電時にも処理が続けられる発電システム、ポスト地球温暖化への貢献などを目的とするもので、地域の方々からの声を受けてのものと伺っています。ガスタービン発電機を設置し、平常時の発電だけでなく、非常時にも隣接する市役所や体育館へ蒸気や電気を送れるものにしようというものでした。
Dさん:ガスコージェネレーションですよね。ごみ処理施設に導入するのは、全国でも珍しいケースだと聞いています。
Aさん:はい。そして三つ目の特徴が「見せる」ことを意識した施設にしようというものでした。ごみ処理施設というのは、地域の方々にとっては不可欠なものですが、現実はできれば近くにあってほしくないという意見も多く、人目につかないものにしようとすることが多いのです。でも、地域の方々と武蔵野市は、自分たちが出すごみを処理するために必要な施設である、将来の子供たちにより理解してもらい、継承してもらいたいという思いから、「見せる化」を図ろうとされました。これは全国でもほとんど例がないと思います。
Bさん:そういうコンセプトの施設を具現化した経験はなかったので、ガラス張りでごみ処理が見学できる広島県の施設の視察に行き、参考にしました。
要望にできる限り応えたものを作り上げてみせる!
Cさん:ここでもメンテナンスのためのスペース確保とのせめぎ合いがありました。
Aさん:そうでしたね。決して広くはない用地にガスコージェネレーションの設備を入れたり、見学がしやすいように通路の幅を広めにとったりすると、さらにプラントの部分をギューっと狭くしないといけなくなりますし。
Bさん:でも、私はこの「見せる施設」をやると聞いたとき、すごくおもしろそうだと思いました。メンテナンスのしやすさとの両立は難しいと理解した上で、地域の方々と武蔵野市の新しい発想をかたちにする挑戦にぜひ関わりたいと思いましたね。当社からは20人ほど、また一緒にチームを組んだ協力会社の方々も15人くらいいましたが、Aさんの号令のもと、皆同じ方向を向いていたと思います。だからうまくいったのではないかと。
Aさん:そうでしたね。地域の方々と武蔵野市の熱意と意識の高さを考えると“本物志向”でいかないと、この提案は通らないという意見は一致していました。ご要望にできる限り応えたものを作り上げてみせよう、という空気はありましたね。そういう仕事ってなかなか出合えないと思います。
Cさん:当時、自分はどのような思いで仕事をしていたかを振り返ると、お客様からのご要望はこれまでで最も多く、しかも多様だったので、それを社内に持ち帰るときは、どこまで実現してもらえるか不安に思う部分もありましたね。間をうまく取り持っていかなければと考えていました。
Dさん:私は最初に接したごみ処理施設が武蔵野クリーンセンターなので、通路の広さも、あれが普通のように感じてしまうのですが、そんな苦労や配慮があったのですね。
竣工後、運営の仕事に関わる中で思うこと。
Aさん:そうやって作り上げた提案が無事実り、着工へ。そして一昨年ついに完成したわけですが、でき上がってからも当社は20年間の運営を請け負っています。メンテナンスはBさん、環境啓発などを目的としたイベントなどはCさんやDさんに関わってもらっていますが、どうですか?
Bさん:メンテナンスは事前に3D画面でのシミュレーションを行っていたので、完成して実際に作業をしてみた感じは、想定通りでした。日々の仕事を見学に来られた方々に見てもらうというガラス張りの環境は、最初は違和感を感じる職員もいたようですが今は慣れてきたようです。
Dさん:私はイベントの運営のような、思ってもみなかった仕事をさせてもらっています。チラシを配ったり、着ぐるみを着たり。グッドデザイン賞の申請などにも携わり、授賞式にも出席させてもらえたのはラッキーでした(笑)。まだ専門的な知識はありませんが、自分の発想を生かす場を与えてもらえていることはありがたいと思っています。
ごみ処理施設を“求められる場所”にすることができた。
Cさん:通常の仕事は、お客様である自治体の方と接することはあっても、施設を使う地域の方々と接することはほとんどありません。そこに踏み込んでいけたというところで、キャリアにおいても特別な仕事になったと思いますし、気づかされることは多くありますね。
Dさん:地域の方々は本当に積極的で、イベントで「こんなことをしてはどう?」って、意見をくださる方も多くいらっしゃいます。
Aさん:本来ごみ処理施設は、多くの付加価値を生む、身近で喜ばれる施設であるべきなのでしょうね。その上で、電気をつくったり、災害時の拠点にもなる。個人的には、そういう施設をつくることができ、子供が「パパの仕事はごみから電気をつくる仕事」と言ってくれたのは嬉しかったです。“迷惑施設”なんて呼ばれることもあったものを、皆で知恵を絞り、力を合わせることで、“求められる場所”にできたことは誇りに思っています。
Bさん:一歩を踏み出してみて、仕事とは変わっていくものなのだなと思いました。ごみ処理施設の考え方の転換期なのかもしれません。これまでのやり方を変えていく部分も多々あります。Dさんのような若い人たちがいろいろな挑戦ができる環境ができつつある気がしますね。
Dさん:はい。この座談会に目を通し入社してくれた後輩たちと一緒に、新しいチャレンジをしていきたいです!
施設の周囲を囲み、外観に落ち着いたイメージをもたらしているルーバーと呼ばれる細長い素焼きの角材は、武蔵野の象徴的な景観である雑木林をイメージして、長さや色合いが決められた。「お客様の基本設計や地域の皆様の思いから導き出した新しいコンセプトであり、私たちが提案し、採用されたものの一例です」(A)